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育成塾1期:塾生から感じた農業経営者の「3つの弱点」

育成塾1期生の第一印象は


明るく前向きでエネルギーにあふれた人が多いこと。また、全国から選ばれた人たちだけあって、活動的で何ごとにも真面目に取り組む姿勢は好感がもてました。

でも、こんな弱点も見えてきました…


育成塾が進むにつれて、事業を進める上で無視できない弱点が見えてきました。

次の3つです。

  1. 消費者サイドに立って見る目の弱さ
  2. 生産に対しての意識の低さ
  3. 事業を営んでいるという意識の低さ

そこで私の担当する講義は、この3つの弱点をおぎなうためのものとなりました。

1.消費者サイドに立って見る目をもっていますか


塾生が自分の農作物を説明し、仲間の農作物を評価する会話をきていて、大変危ないと感じました。それは、地元で働き暮らしている自分たちの意識や感覚を疑うことなく評価しているから。塾生の農作物を実際に買って食べてくれているのは、塾生が想像できない意識や感覚をもっている消費者(地元から遠く離れた地域や大都市圏など)かもしれません。

 

消費者の意識や感覚で良い商品と認められてはじめて、買っていただける。ビジネスの世界では、自分たちの見るではなく、お客さまである消費者の目で見た、商品、価格、販売、宣伝を考え判断することが求められます。これがBtoC(消費者向ビジネス)のマーケティングと言われる考え方です。

2.生産に対する意識が弱くなっていませんか


農業は、新しい農作物(新しい価値)を生み出し、農作物(生み出した価値)とひきかえに対価をいただく、生産・製造の事業です。にもかかわらず、塾生が関心を向けているのは、加工品をつくること、販売することばかりでした。

 

農業を事業として成功させる(=きちんともうける)ためには、加工品をつくる、新しい売り方・売り場に進出するという目先の派手なアウトプットにばかり意識を向けるのではなく、生産・加工(加工の必要がない農園・会社も多い)・販売のバランスを意識すること、特に価値をつくる源である生産で競争相手に負けない商品をつくることが大切です。

 

加工・販売にばかりに目がいき、生産に対する意識や努力が軽視される傾向は、事業の全体像を見ることなき6次化推進の弊害であり、育成塾生だけでなく農業界全体の課題だと感じています。

3.事業を営んでいる意識や覚悟をもっていますか


自分が事業をするのだという意識や覚悟をもって、農業をはじめた人が少ないと感じました。食料を生産する、農地を守る、地域を活性化させる、自然環境を守るなど、農業の役割・機能はたくさんあります。しかし農業の業とは、事業の業でもあり、利益を出し続けて継続するビジネスでもあるはずです。

 

塾生の多くは、自農園・自社の農業をよくするため、積極的に学んでいる人たちでした。ところが学んできたのは、事業のある部分だけを強化する個別のスキル(加工品の作り方、POPのつくり方、接客方法、SNSの活用etc.)ばかりのようでした。事業の成否を左右する、事業の根幹を決める事業の考え方(戦略)や事業モデル(=もうかる形)を知らないことに、正直驚きました。もちろん個別スキルは大切ですが、事業を継続できなければ全く意味をなさなくなります。

 

ビジネスの世界では、事業の考え方や事業モデルが適切でないと、いくらがんばっても利益が残らず、結局は廃業や倒産という結果に終わることが一般的です。しかし農業界では補充金や助成金の支援があるためか、自分たちの事業の失敗を直視せず経営の責任を明確にしなくても済んでしまうケースも多く、事業家としての意識や覚悟が養われにくいのが問題だと感じます。

 

育成塾生には、補助金・醸成金や専門家のアドバイスに頼りきりになるのではなく、自分たちの頭で考え判断し、「事業を成功させるんだ」という強い意思と覚悟をもって、きちんともうかる農業を実現して欲しいと思います。

育成塾を通してどう成長したのか


一番成長したと感じる点は、自分に、自農園・自社に「何が必要なのか」「何が必要ではないのか」を、自分で判断できるようになったことです。

 

農業は事業ですので、判断のものさしは

  • 事業の役に立つか、立たないか
  • 競争相手に勝てるか、勝てないか
  • 利益が出るか、出ないか
  • 将来に向けて意味があるか、ないか

です。

自農園・自社の農業を事業のものさしで、自分で判断できるようになったことが、育成塾1期の最大の成果だと思います。

卒業に向けて育成塾1期生へのエール


「女性農業経営者次世代リーダー」とはどんな人でしょうか。

それは、まず自農園・自社に集中し事業を成功(=利益を出し継続させる)させる姿を見せることによって、後に続こうとする農業者を生み出し、地元に税金を落とし、雇用を生み出し、周囲に前向きなエネルギーと良い影響を与える人だと思います。

 

自農園・自社の事業が順調にいっていない人の話を誰が信じ、ついていこうと思うでしょう。周りの人の信頼を生むのは、まず自分の本業(農業)できちんとした成果を出すことです。自農園・自社の事業を通じて、地域に良い影響を与えるリーダーとなってください。期待しています。


※本記事は、2015年2月、塾長高橋澄子が受けた取材の内容に追加・編集を行い、新たに掲載したものです(2019年2月)